解体工事の現場で、地味に見えながらも非常に重要で欠かせない存在なのが「足場」と「養生」。どちらも工事現場の安全を守り、周辺の住民への迷惑を最大限に抑えるために必要なものです。
特に養生には現場の状況や環境によって、どんなものを使うかを選ぶ必要があります。業者が現場において何に高い意識を置いているかがわかる目安ともなるかもしれません。
今回は、解体工事現場で使われる養生の種類と大体の費用相場について、詳しく見ていきましょう。
養生の役割
建築・建設現場において「養生」の役割は大変重要なものです。
役割のひとつめは「トラブル回避」としての存在。騒音や粉塵の飛散などで、周辺住民に迷惑をかけることを最大限回避できるようにするためのものです。
ふたつめは「安全対策」としての存在。作業員の転落や工具などの落下・建物の倒壊をとどめる役割を果たします。
基本的な役割はこのふたつに集約されますが、あとは状況と場合によってさまざまな養生を使い分けます。養生にもいろいろな種類があるのです。次項からはそれをひとつひとつ確認していきましょう。
養生の種類
足場養生シート
建物をぐるりと取り囲むように足場を設置したら、その足場に沿って養生シートを取り付けて、防音性や安全性を高めます。
足場全体がすっぽりと覆われている光景は、解体工事現場だけではなく、一般的な建築現場でもよく見られるでしょう。足場シートは、養生シートの代表的なものです。
取り付けるシートの種類にはいくつかあり、その特性を利用してさまざまな安全性を高めることができます。
防音(遮音)シート
普通の養生シートでもある程度の防音性はありますが、住宅密集地や近隣の家屋・建物と距離が近い地域などでは、防音性に優れたシートを使うのが望ましいでしょう。
防音シートは0.5〜1mmの厚みがあったり、密度の高い作りになったりしていて、通常の養生シートよりも約10〜20dBほど騒音を低下できるといわれています。音が外に漏れにくくなることが期待できるでしょう。
また、防音性を高めるため穴が全くあいていないので、細かな粉塵の飛散を抑えることもできます。
解体工事の三大トラブル「騒音」「粉塵の飛散」「振動」のうちの2つを抑制できる優れものです。大抵の製品は銀色か黒色で、大きく「防音」と書かれているため、外から見てもすぐわかるでしょう。
ただし風も一切通さないため、強風のときは足場ごと崩れてしまう危険性が出てきます。風の強さによっては外した方がいいシーンも出てくるでしょう。
防炎シート
防炎加工が施されていて、もし火がついても通常の養生シートより燃え広がりづらい性質を持っています。「消防法令の防炎性能基準」を満たしていると防炎ラベルが貼られ、防炎シートという製品として認められていることになります。
燃えにくい素材の「難焼性」、燃え続けない素材の「不燃シート」など、いくつかの種類に分かれているという特徴もあります。
一般的な家屋の解体工事からは少し外れますが、高さ31m以上の建築物や、不特定多数の人が入る地下に作られた店舗・事務所などは、防炎規制の対象となっています。このような建築物の工事を行う際には、防炎シートを使うことがそもそも義務付けられているのです。
また、鉄筋コンクリートの建物の解体でも、電気などによる溶断を行うときに火花が飛び散ることを考えて、防炎シートが用いられます。素材はポリエステルや塩化ビニールなどさまざまあり、800℃の高温まで耐えられるようなものも用意されています。
メッシュシート
その名の通り、メッシュ生地でできているシートです。ある程度の大きさの粉塵やほこりは防ぎながらも、風通しはよいという特徴を持ちます。
丘の上や海の近くなど、風が強い地域での解体工事で強い味方になるとともに、一般的な地域でも台風の多い季節や急な強風の日には、メッシュシートが役立つでしょう。光も通しやすいので、採光性にも優れています。
仮囲い養生
足場に取り付けるのではなく、パイプを組んだもので建物全体を囲い、その上から養生シートを取り付けたり、フェンスやネット・ゲートを使用したりするのが「仮囲い養生」です。
足場養生と同様に、安全対策や粉塵などの飛散防止の役割を果たします。とはいえ建物全体を囲うわけではないので、足場養生ほどきちんとした性能は期待できません。
仮囲い養生の役目は、どちらかというと「工事現場の目印」です。工事範囲を囲ってわかりやすくしておくことで、近隣住民の不用意な侵入などのリスクを回避するための役割を果たしています。
一般家屋の解体ではあまり見かけず、ビルやマンションなど敷地が広い建物などに設置されることが多くなっています。
シート以外の養生方法
養生の言葉の意味は、もともと「建築工事などの、破損防止の手当」というもの。つまり養生の方法は「シートだけではない」のです。
鉄板による養生
騒音や粉塵飛散の防止でなく、安全確保という役割を大いに果たすのが、鉄板による養生です。解体作業の通路確保や重機の足場・搬入経路確保などを目的とし、地面に鉄板を敷くのです。要するに「敷くタイプの養生」です。
鉄板以外にも硬質プラスチックやゴムマットなどを素材とした養生もあります。
散水・水まき
シートなどの物理的なもので遮るのではなく、「水をまく」という行為自体も養生の一種といえます。空気が乾燥した状態だと、細かなほこりや粉塵が空気中を漂い、風で飛び散ります。それを水まきすることで抑えるのです。
解体予定の建物の、壁や床にあらかじめ水をかけることで粉塵が舞い上がることを防止します。
防音パネル
防音シートよりも、さらに防音性を重視する場合に使用する、防音パネルというものも存在します。シートではなく板状のものなので、厚さでもつくりでもシートより防音性が期待できます。
その分費用もシートより高額になるため、一般的な家屋の解体で使われることはあまりありません。ビルやマンションなど、大型な建築物の解体の際に活躍することが多いようです。
養生シート費用の目安
養生は消耗品である
きちんとした業者であれば、養生シートの扱いもしっかりしたものです。設置するときも丁寧に貼り合わせ、引っ掛けて破いてしまうということも極力ないような扱いをしているはずですが、それでも消耗は激しく、定期的に新調しなければいけないものです。
それもあり、解体工事費用には「養生費」という項目も組まれていることがほとんどです。設置する人件費ももちろんのことですが、必要に応じて養生自体の費用負担もあることを理解しておきましょう。
目安としては、シート1平方メートルあたり300~500円。防音シートや防炎シートだと当然もっと高額になりますが、業者によって異なります。まずは見積できちんとした金額を出してもらい、確認しましょう。
まとめ
養生と一口にいっても、「防音性」「防炎性」「風通しのよいメッシュシート」などの種類があり、またシートだけではなく「パネル状」「敷くタイプ」「散水・水まき」といった変わり種の養生も存在することがわかりましたね。
どれも安全確保と周辺住民への配慮のためには欠かせないものです。業者が養生をどのように扱っているかということによって、安全意識もはかれる部分であるとともに、施主もしっかり気にしておきたいところです。