養生シートとは、建築・建設現場において建物のまわりを包むように張る布状のものです。現場の「安全確保」と、近隣との「トラブル防止」のために役立つ、工事現場では欠かせないもののひとつです。
今回は養生シートについて、さまざまな観点から見ていきましょう。
養生の役割
騒音を軽減する
重機などで建物を取り壊していく解体工事において、ある程度の騒音はつきものとはいえど、近隣住民に与えるストレスは相当なものがあります。
基本的には布である養生シートで建物を囲んだとしても、完全に騒音を遮断することはもちろんできませんが、何もないよりは遥かに大きな音を軽減することができます。
後述しますが、防音性能に優れた養生シートも存在するため、たとえば住宅密集地などではそれを使うことで、さらに防音設備としての役目を果たすでしょう。
ほこりや粉塵の飛散を軽減する
大きながれきが転がるイメージのある解体工事ですが、現場には非常に細かい粉塵やほこりといったものが大量に飛散します。
これが騒音と同様、近隣の住民には相当な迷惑をかける原因になってしまいます。車や洗濯物を汚してしまったり、健康被害を及ぼしてしまったり。
こういった粉塵飛散も、養生シートでかなり軽減することができます。解体工事現場では水まきを併用しながら、ほこり・粉塵の舞い上がりの対策とすることが多く見られます。
転落や落下・倒壊の防止
作業員の転落事故や、工具・資材の落下による地上の人間の負傷事故といったものも、養生シートの存在で極力減らすことができます。
もちろん養生シートが張ってあるからといって、転落や落下を完全に防止できるわけではありませんが、そこに何も存在していない空間と、たとえ布シートであっても「壁」が存在している空間であれば、事故を防げる可能性は大きく変わります。
また、いずれにしても「養生シートの外側に転落・落下する」ことはほぼ完全に防げるため、シートの外側にいる第三者を巻き込むことはまずなくなります。
建物の倒壊も同様です。万が一解体中に建物が崩壊するようなことがあっても、養生シートの外側への被害は最小限に食い止めることができるはずです。
養生の種類
工事現場における養生シートの役割を一通り知ったうえで、次にシートにはどのような種類のものがあるのかを見ていきましょう。
足場養生シート
「足場」は、建物のまわりを取り囲むように設置した仮設の床のことです。この足場に取り付けて設置する養生シートが、一般的にイメージされる「養生」ではないでしょうか。
このとき取り付けられるシートの種類で、求められる役割が変わってきます。
防音(遮音)シート
通常のシートよりも厚みがあり、防音性に優れたものです。住宅密集地や近隣の建物と距離が近いような現場では、防音シートを使うのが望ましいでしょう。
防音性を高めるため穴が全くあいていないので、細かな粉塵の飛散を抑えることもできます。
その分風を一切通さないということなので、風の強い地域や季節には使用に注意が必要です。後述するメッシュシートを併用するなどして、足場ごと崩れてしまうことを防がなければならないでしょう。
防炎シート
燃えにくい素材の「難焼性」、燃え続けない素材の「不燃シート」などのように、防炎加工が施されていて、燃え広がりづらい性質を持ったシートです。
通常の家屋の解体工事ではあまり用いられないシートですが、鉄筋コンクリートの建物の解体などでは、溶断時に火花が飛び散ることを考えて、防炎シートが用いられます。800℃の高温まで耐えられるようなものも用意されています。
メッシュシート
その名の通り、メッシュ生地でできているため、風通しがよいシートです。非常に細かい粉塵の飛散防止という点では少し難がありますが、ある程度の大きさの粉塵やほこりは防いでくれます。
風が強い地域・季節での解体工事で強い味方になるでしょう。光も通しやすいので、採光性にも優れています。
仮囲い養生
足場に取り付けるのではなく、フェンスやネット・ゲートを使用するのが「仮囲い養生」です。どちらかというと「工事現場の目印」としての役目を果たすもので、工事範囲を囲ってわかりやすくしておくことで、近隣住民の侵入などのリスクを回避します。
一般家屋の解体ではあまり見かけず、ビルやマンションなど敷地が広い建物などに設置されることが多くなっています。
シート以外の養生方法
養生の役目を果たすものは、シートだけではありません。たとえば工事現場の安全な通路や搬入経路として地面に鉄板を敷いたり、散水を行って粉塵の飛散を抑えたりする行為も、広い意味での「養生」といえます。
また、シートではなくパネルのようなものを置く場合もあります。代表的なものが「防音パネル」で、厚さでもつくりでもシートより防音性が期待できるでしょう。
必ずしも「シート状のもの」が養生とは限らないのです。
養生シートをみるだけで業者の質を見極められる?
「安全確保」「近隣とのトラブル防止」を役割とする養生シートですが、実はこれを見ただけで「業者の質」をある程度判断できるとしたら。
明日から工事現場で、養生シートに注目してしまいますよね。
どんなシートを使っている業者が要注意なのでしょうか?
破れた養生シートをそのまま使っている
破れた養生シートだと、隙間からほこりや粉塵が飛散してしまいます。シートの意味をまるでなさないですよね。
養生シートの役割をきちんと理解しているような業者であれば、破れたシートをそのまま使い続けるようなことはしないでしょう。破れた部分に重機などを引っ掛けて大きな事故につながる可能性もあります。
つまり、破れた養生シートをそのまま使うような業者は、安全や近隣への迷惑に対する意識が低いということです。そういった業者はトラブルを引き起こす可能性も高く、実際トラブルが起きたときの対応もずさんであると想像してしまいますね。
養生シートの張り方がずさんである
足場とシートの大きさが合っていない・シートとシートの間に隙間ができている。こういったいいかげんな張り方をされている場合も、養生シートの役割はきちんと果たされていないといえます。
また、養生シートは外から見ても目立つ部分です。顧客やその他第三者からどう見えているのかということに気を配れないような業者に、果たして丁寧な工事ができるのだろうかと不安を感じてしまいますね。
社名入りの養生シートを使っている
養生シートは「消耗品」です。大事に使っていても破れてしまったり、汚れがひどくなってしまったりすればやがて新調する必要があります。
そのような消耗品にも社名を入れられるということは、経営に余裕があるという見方はできないでしょうか。
さらに、養生シートのようなよく目立つ部分に社名を大きく入れるということは、それだけ自信があると判断することもできます。
養生シートを設置しないと法令違反?
このように、工事現場で重要な役割を果たすのだから、設置を怠ればもちろん何か罰則がある…かといえば、そんなこともありません。実は、養生シートの設置に法的拘束力はないのです。
ただし、厚生労働省や国土交通省は、解体業者へ「これらに沿って安全に配慮するように」というさまざまな基準を定めて、提示しています。従わなければ法的措置がある、ということではないのですが、解体工事というのは、ただでさえ危険が伴うものです。最大限の対策や措置を行っていても、事故やトラブルはゼロではありません。だからこそ養生の設置など、考えられる範囲での安全対策はすべて行っておくことが重要なのです。
つまり「法的拘束力はない」という理由のみで養生シートの設置を怠るような業者は、やはり信頼を置くには値しないともいえるでしょう。
このような意味でも、「養生シートを見れば業者がわかる」といえるのです。
まとめ
養生シートは解体工事に限らず、建設・建築現場で欠かせない重要なものです。施主としても役割や存在意義をしっかり理解しておきましょう。